私の好きな映画

趣味は洋画
2025/06/16 23:16

懐古 アメリカ映画の「1975年」

昔の時代を慕い、アメリカ映画の名作を年度別に振り返っている。

「1960年」を初回に、前回「1974年」まで15回にわたって当時の名作に触れてきた。

 

今回は、アカデミー賞主要部門で5冠に輝いた「カッコーの巣の上で」、そしてまだ駆け出しの新人監督だったスピルバーグが手掛けた「JAWS ジョーズ」に沸いた「1975年」(昭和50年)の話題作をご紹介したい。

 

 

「カッコーの巣の上で」(監督:ミロス・フォアマン

                     第48回 アカデミー賞・作品賞受賞

 

体制を痛烈に風刺したケン・ケーシーの原作を基に、人間らしさ、自由への渇望といったヒューマニズムを観客に訴えている。

1963年9月。精神病の疑いで刑務所からオレゴン州立病院へ移送されてきたマクマーフィ(ジャック・ニコルスン)は、他の患者たちが無気力で病院の言うがままなことに驚き、彼らを厳しく管理する看護婦長ラチェッド(ルイーズ・フレッチャー)に反感を抱く。病院にはテーバー(クリストファー・ロイド)、ビリー(ブラッド・ドゥーリフ)、マルティニ(ダニー・デヴィート)、チーフ(ウィル・サンプソン)といった患者がいるが、大半は任意で入院している。マクマーフィは、自分だけが病院の許可なしに退院できないことを知り、脱走を計画するのだが...

 

刑務所の強制労働を逃れるため、気狂いを装っている男マクマーフィ。正気と狂気の境目にあるような強烈な演技で、ジャック・ニコルスンは見事アカデミー主演男優賞を受賞した。

 

そして、ジャック・ニコルスンと五分に渡り合ったルイーズ・フレッチャー。

抑揚のない声で冷淡そのもの、決して笑わない婦長役は絶品で、アカデミー主演女優賞を手にした。

 

人間の自由や尊厳とは何かを浮き彫りにした、ヒューマン・ドラマの快作である。

 


 

「JAWS ジョーズ」(監督:スティーヴン・スピルバーグ

 

巨大な人食いザメに襲われた海岸の恐怖と、サメと死闘を繰り広げる男たちの姿を描き、世界的な大ヒットとなったスピルバーグの出世作。

小さな海水浴場アミティに巨大な人食いザメが出現し、若い女性が襲われた。警察署長のブロディ(ロイ・シェイダー)は海岸を遊泳禁止にしようとするが、稼ぎ時を控えた市長(マーレイ・ハミルトン)はこれに猛反対する。不安を覚えるブロディの目の前で、今度は少年が犠牲になった。サメ退治のプロで漁師のクィント(ロバート・ショー)は、1万ドルの報酬を要求してサメ退治を申し出た。ブロディは海洋学者フーパー(リチャード・ドレイファス)とともに、クィントの漁船に乗り込み海に出た。彼らは海上で巨大なホオジロザメに遭遇するのだが...。

 

当時28歳の新鋭監督スピルバーグの劇場映画2作品目で、「続・激突!カージャック」(73年)に続く作品。(デビュー作の「激突!」は71年のテレビ映画)
オープニングで女性がサメに襲われるシーンの不気味さ、水中から見た彼女の無防備な足下にかぶさる、ジョン・ウィリアムス不気味なテーマ曲巧みな音響効果が恐怖を助長させている。

 

スピルバーグは言っている。 ‘観客を映画に参加させてしまえば、怖がらせることが出来ると思った。観客を、水の中で泳いでいるような気分にさせてしまうこと、自分がサメに襲われる犠牲者になるかもしれないと思わせるようにすることが、この映画を成功させる唯一の方法だった’

 


 

「ナッシュビル」(監督:ロバート・アルトマン

 

大統領選挙とカントリー&ウェスタンの祭典を巧みに絡ませたた、アルトマンお得意の群像劇

テネシー州・ナッシュビルの街には、フェスティバルを前にして全米各地から続々と人が集まってきていた。チャンスを摑んで名声を得ようとする歌手の卵(バーバラ・ハリス)、英国から派遣されたテレビ局のリポーター(ジェラルディン・チャップリン)、スター歌手(ロニー・ブレイクリーカレン・ブラック)やその取り巻きたちである。一方、大統領候補選挙のキャンペーンも盛り上がっており、フェスティバルのメインは、その候補者が主催するコンサートだったが、その裏には意外な事件が隠されていたのだが...。

 

登場人物は誰が主役ともいえないほど、様々な人々が様々なエピソードを構成する。

アルトマン監督の狙いは、1970年代の混迷するアメリカ社会を、ナッシュビルという典型的な ‘古き良きアメリカン・スタイル’ の場で浮き彫りにして見せるところにあったのではないか。
当時、ベトナム戦争の傷を抱えた混沌のアメリカの状況を救済でも告発でもなく、俗っぽい人物やエピソードの積み重ねで批評してみせたのであろう。

 

出演俳優は上記以外に、キース・キャラダインネッド・ビーティティモシー・ブラウンアレン・ガーフィールドヘンリー・ギブソンスコット・グレンジェフ・ゴールドブラムといった個性派の面々のほか、ジュリー・クリスティエリオット・グールドがカメオ出演している。

 


 

「狼たちの午後」(監督:シドニー・ルメット

 

実際に起きた銀行強盗事件を題材に、強盗犯がマスコミによって一転ヒーローと化す矛盾を描いたサスペンスの傑作。

1972年8月、猛暑のブルックリン。ソニー(アル・パチーノ)とサル(ジョン・カザール)の2人は、チェイス・マンハッタン銀行の支店に押し入った。ところが現金は既に本店に輸送されたあとで、残されていたのは僅か1100ドルの現金と、警官隊とFBIの姿だった。警察によれば、銀行は完全に包囲されているから、武器を捨てて出てこいと言う。アテが外れたソニーは、9人の行員たちを人質に銀行に立て籠もると、テレビ中継を通じて巧みに聴衆にアピールを始める。報道陣が詰めかけるなか、モレッティ刑事(チャールズ・ダーニング)の必死の説得が続くのだが...。

 

アル・パチーノとジョン・カザールといえば、「ゴッドファーザー」(72年)、「ゴッドファーザーPARTⅡ」(74年)における、次男フレド(カザール)・三男マイケル(パチーノ)の間柄。

ソニーは強気一辺倒で行動するが、サルは ‘成功するのか、失敗するのか、果ては屍と化すのか...’ ゴッドファーザー同様、本作でも気の弱さが露見される。

 

わずか11分の出演ながら、クリス・サランドンがアル・パチーノの ‘妻’ を演じて強烈な印象を残し、アカデミー助演男優賞にノミネートされている。

 

シドニー・リメット監督作品にハズレは無い。

 


 

「さらば愛しき女 <ひと> よ」(監督:ディック・リチャーズ

 

アメリカ探偵小説を代表するキャラクター、フィリップ・マーロウの活躍を描いたレイモンド・チャンドラー原作の名編。

1941年のロサンゼルス。大男のムース・マロイ(ジャック・オハローラン)から、ベルマという女の捜索を依頼された私立探偵のマーロウ(ロバート・ミッチャム)は、わずかな手がかりを頼りに彼女の足取りを追っていたが、捜索が核心に近づくにつれ、彼が行く先々で接触した人間が次々と殺されていった。捜索の過程で、美しい金持ちの夫人ヘレン(シャーロット・ランプリング)と知り合ったマーロウは、彼女と恋に落ちるが、やがて彼自身も危機にさらされる...
 

冒頭、ロサンゼルスの夜景をバックに紹介されるクレジット、流れるジャジーなスコア、この時点でもう堪らない世界に引き込まれる。

「愛しき女」が登場するまでは、マーロウを取り巻く様々な人物が個性的な演技をみせる。
ロス市警のナルティ警部補(ジョン・アイアランド)、彼の部下ビリー(ハリー・ディーン・スタントン/相変わらずの控えめな演技)、未亡人ジェシー(シルヴィア・マイルズ)等の面々である。

 

本作で世界的なトップ女優となったシャーロット・ランプリング。
73年「愛の嵐」で一大センセーションを巻き起こしたミステリアス女優だが、若かりし頃の彼女は欧州各国の言葉を喋れる現代感覚に秀でた女性だったとか。
しっとりとした美貌と、激しい気性の「静」と「動」のギャップが不思議な魅力を醸し出している。
本作出演時29歳の彼女、その倍の年齢58歳で出演したロバート・ミッチャム扮するマーロウを、あっという間に落としてしまった。

 


 

「弾丸を噛め」(監督:リチャード・ブルックス


開拓時代の西部を背景に、700マイル踏破と2000ドルの賞金獲得を目指し、人と馬による、命を賭けた死のレースが始まる。

1908年の西部。山あり、谷あり、砂漠ありの超過酷なコースを、6日半で踏破する死のレースが始まろうとしている。アメリカじゅうで注目され、何百万ドルという賭金が動くのだ。

各地から集まった出場者8人の面々は、
カウボーイのサム・クレイトン(ジーン・ハックマン)とミスター(ベン・ジョンソン)、向こう見ずな若者カーボ(ジャン・マイケル・ヴィンセント)、馬術家リー・クリスティー(ボブ・ホイ)、
乗馬を愛する英国紳士ノーフォーク卿(イアン・バネン)、賞金稼ぎルーク・マシューズ(ジェームズ・コバーン)、メキシコ人(マリオ・アルティーガ)、そして紅一点、ミス・ジョーンズ(キャンディス・バーゲン)である。スタートが切られた。厳しい大自然が待ち受けるなか、彼らはレース中の毎晩、定められたチェック・ポイントに立ち寄って、獣医による厳しい馬の検査を受けなければならない。次々と脱落者が出る。死人も出る。果たして勝者は誰なのか...。


ジーン・ハックマンが若い。才媛キャンディス・バーゲンはさらに若い。
ジャン・マイケル・ヴィンセントに至っては、31歳だがもっと若くみえる。
ジェームズ・コバーンは男っぽさに渋さが加わっている。
そして、70年代を通じ、もっとも多忙な俳優の一人だったベン・ジョンソン。
肉体に刻み込まれた年輪の迫力を感じる。

題名の「弾丸を噛め」は、アメリカ開拓時代、負傷した男が麻薬の代わりに弾丸を噛んで手術の苦しみに耐えたという故事に起因しているという。

骨太の映画だ。

 


 

「シャンプー」(監督:ハル・アシュビー

 

ロサンゼルス上流社会の乱れた性風俗を描いた喜劇で、いわゆる風刺コメディなのだが、主演がウォーレン・ベイティだけに、彼自身のイメージが投影されているのではと勘繰ってしまう。


高級住宅地ビバリーヒルズの美容院に勤めるヘア・ドレッサーのジョージ(ウォーレン・ベイティ)は、女性にモテすぎて身がもたない日々。彼は独立して自分の店を持とうと資金集めをしており、情事の相手フェリシア夫人(リー・グラント)に取り入っている。彼女の夫レスター氏(ジャック・ウォーデン)が出資してくれそうだと聞いて、ジョージは喜び勇んでレスターの事務所を訪ねた。ところが、そこで出会ったレスターの愛人ジャッキー(ジュリー・クリスティ)は、ジョージのかつての恋人だった。その一方で、プレイボーイのジョージは女優のジル(ゴールディ・ホーン)からも惚れられている。出資することに乗り気なレスターは、あるパーティにジョージを誘った。レスターは妻の手前上、ジャッキーをエスコートしてくるようジョージに依頼した。パーティの夜、会場ではフェリシアとジャッキーが鉢合わせする。更に、ジルが監督のジョニー(トニー・ビル)を伴ってやって来る。果たして不穏な空気が流れる中、この筋金入りの男女だちは、どこへ向かおうとしているのか....。


才能豊かなウォーレン・ベイティは製作と脚本も手掛け、本作をきっかけに、以降は監督業にも乗り出していくことに。

 

リー・グラントが有閑マダム役を貫禄の演技でこなし、アカデミー助演女優賞を受賞。
ジャック・ウォーデンが同・助演男優賞にノミネートされている。

 


上記に挙げた以外の作品では、「コンドル」、「風とライオン」、「王になろうとした男」(米・英合作だが)、「イナゴの日」、「ローラーボール」、「ファニー・レディ」などがある。

OSZAR »
コメントする
3 件の返信 (新着順)

この頃って、映画(洋画)を見出した時なんです。
ラジオでえ映画番組があって、公開映画のサントラを流していたんで、
そこが記憶に残っています。

「カッコーの巣の上で」・・・J・ニッチェのソー・ミュージックが強烈に印象的
「ジョーズ」・・・レコードをみんなで聞いて「ジャ~ジャン」と口ずさんでいました。
「さらば愛しき・・・」・・・トランペットのソロでムーディな音楽
「ナッシュビル」・・・キース・キャラダインが歌う "I'm Easy"をよく聞きました。

これで映画を見た気になっていました。
劇場で観たのは「ジョーズ」と「狼の午後」だけ・・・


趣味は洋画
2025/06/18 23:10

カリントウエストウッド 様

コメントありがとうございます。
「映画」と「音楽」は切っても切り離せない関係ですね。

私も中学生の頃は、ラジオで映画音楽をよく聴いてました。
又、映画音楽大全集なるLPも何枚か持ってました。

作品のテーマ曲のメロディーを聴くと、名場面のシーンが思い出されます。
何年経っても、映画の素晴らしさは不変だと思っています。

LOQ
2025/06/17 23:28

個人的には1975年前後は映画館入り浸りの時期でなつかしい作品ばかり。

記憶が不確かですが、ジャック・ニコルソンを僕が初めて認識したのは『 カッコーの巣の上で 』だったかな。 遅いんです。 トレンドからずれてます。
ライバルのダスティン・ホフマンとアル・パチーノより先にアカデミー主演男優賞獲りました。
あとの二人のほうが女性ファン多いでしょうに、見かけによらず業界ウケがよかったんでしょうね。

マイケル・ダグラスは俳優よりも前にプロデューサーとして名をあげましたね。
ダニー・デヴィートとはこのころからの盟友。
元々は父カーク・ダグラスが権利を買って舞台化していた作品。
共同プロデューサーのソウル・ゼインツはスタジオではなくレコード業界からのインディペンデントのプロヂューサー。 それでこの後『 アマデウス 』と『 イングリッシュ・ペイシェント 』でもアカデミー作品賞を獲っていて、これも記録ですね。

1975年にはあと『 アリスの恋 』と『 バリー・リンドン 』『 王になろうとした男 』などがありますね。
1976年、1977年はアメリカ映画当たり年と思っていますのでご投稿楽しみです。


趣味は洋画
2025/06/18 23:05

LOQさん
コメントありがとうございます。

1975年作品ですが、「バリー・リンドン」は英米合作の記述(Wiki)もある傍ら、イギリス映画との記述(オールシネマ)もあるため外しました。
「王になろうとした男」は本文中に挙げております。
「アリスの恋」は日本公開は1975年ですが、あくまでもアメリカ公開基準(1974年)で挙げているため、本欄からは外しました。

勿論、私の独断偏見です。

LOQ
2025/06/19 08:55

いえいえこちらこそ失礼しました。(^ ^

飛べない魔女
2025/06/17 15:50

こんにちは。この年も名作ぞろいですね。『ジョーズ』は両親に連れられて映画館に見に行きました。スピルバーグ監督の目論見通り、観客は映画の中にすっかりとりこまれ、最後は全員が拍手喝采したことを覚えています。今では、映画館で拍手するなんて光景は見られないので、あの時のことは忘れられない光景になっています。


趣味は洋画
2025/06/17 22:33

早速コメントをいただきありがとうございます。
>『ジョーズ』は両親に連れられて...
そうですか、それなら怖い映画も観られますね。

両目を手で覆って、指の間の隙間から恐る恐る見ていた...いやいや、魔女さんに限ってそれはないですね。
気づけば、もう50年前の作品なんですよね。

OSZAR »