昭和の名優 再見・再考「渡哲也」
渡哲也についてかく語りき
1970年代に
渡哲也主演ありきで、さまざまな企画が計画されました。
自身が歌う「くちなしの花」が大ヒットし、
紅白歌合戦に出場するなど、
文字通りのビッグスターです。
松本清張と野村芳太郎による絹プロダクションで
清張作品の映画化で渡哲也主演作や
「人間の証明」も棟居刑事は当初、渡哲也でした。
また東映で高倉健との共演作も企画されましたが、
いづれも実現に至りませんでした。
これは自ら入った石原プロを支えるため、
と石原プロが映画からテレビに舵をとったため、
長期間に及ぶ映画に出演ができなくなり、
さまざまなオファーを断ってしまったのです。
石原プロの柱となった「大都会」シリーズ
現在CSで「大都会」シリーズが放映されています。
シリーズ3部作が放送されます。
石原プロが最初に手掛けたテレビドラマで、
「太陽にほえろ」は東宝製作で、石原裕次郎は出演のみです。
第一シリーズ「大都会 闘いの日々」は
警視庁捜査四課、いわゆるマル暴の刑事たちを描いた異色の刑事ドラマです。
渡哲也する扮する黒岩刑事は、一ペイ卒で、
課のトップ、佐藤慶の深町軍団が凶悪犯罪撲滅を目掛け、非情な捜査を展開します。

石原裕次郎は警察の記者クラブに詰める文屋です。
渡哲也とは先輩後輩の関係となってます。
本作がいわゆる反社組織と対峙する刑事ドラマで事件の解決をメインとしておりません。
凶悪な組織、人物に立ち向かうため、渡哲也の妹、仁科明子はレイプされた過去を持ち、
情報屋となったクラブのママ、篠ひろ子に思いを馳せるものの、
これら反社組織の黒幕、その情婦でもあった篠ひろ子は渡哲也の命と引き換えに黒幕と海外へ逃亡
してしまう、ああ不条理な無情な刑事の苦悩を描いていました。
メインライターは倉本聰で、娯楽性を抑えた刑事ドラマに仕上げており、
よく30回以上も放送されたな、とつくづく思うのです。
石原裕次郎たち文屋さんたちの世界はいつも記者クラブで雀卓を囲み、
遊んでいます。これも新聞協会からクレームがつかなっかたものだと。
苦悩する黒岩刑事を石原裕次郎が俯瞰して、
よき理解者として事件を見つめていきます。
渡哲也は演技巧者ではないと評価されていますが、
このドラマでは、上司からのプレッシャーなど捜査に苦悩する黒岩刑事を
実に表現しています。
この時期に高倉健と会ったとされています。
高倉健の凛々しさに感激したと言われ、
そのヘヤースタイル=ショートヘヤーにあこがれたのか、
それまでの長髪から角刈りに変貌しております。
これはわたしの想像です。
次に始まった「大都会PARTⅡ」は、前シリーズとやや異なり、
娯楽性を意識したアクションを取り入れております。
黒岩刑事はデカ長となり部下を指揮する立場に昇格。
捜査四課から捜査一課に代わり、追っては反社だけではなくなります。
石原裕次郎はこの警視庁御用達の渋谷病院のドクターに。
妹・仁科明子は過去のトラウマがなくなったのか、消えていきます…
メインライターは倉本聰から永原秀一に変更。
この人は東宝ニュー・アクション映画を手掛けた脚本家です。
この路線変更に倉本聰は相当怒ったらしいです。
徐々にカーチェイスやドンパチシーンが多用されたおかげで、
視聴率も良かったようで1年間(4クール)も放送されました。

カーチェイスの撮影は都内で行われてます。
これは石原裕次郎の存在が大きく、警視庁がロケに寛容だったようです。
他の刑事ドラマのアクションは東京のロケの許諾はとれず、ほとんど横浜で
撮影されています。
渡哲也はここでも、苦悩する黒岩刑事を好演しています。
黒岩刑事は中間管理職となり、課長という上司がいます。
PARTⅡでは事なかれ主義の、ヒラメちゃんです。
演じたのは小池朝雄、小山田宗徳、滝田裕介の三人が人事異動で着任します。
それぞれの事情と中間管理職としての苦悩が描かれています。
部下たちから信頼が薄いものの、これらの上司を支えられないことに
忸怩たる思いや、部下の暴走など、職場の人間関係がクール、かつドライに
描かれ、言葉を極力抑えた渡哲也の演技が生きています。
スタッフは舛田利男や日活ニューアクションの長谷部安春らが演出に参加しています。
注目は村川透です。
日活末期の監督でロマンポルノ時代も在籍していましたが、
その後退社して故郷の福島に帰ってました。
ここで石原プロに声を掛けられ、その後、松田優作と「最も危険な遊戯」で評価されます。
松田優作のアクション映画や同枠の刑事アクションドラマも多数演出し、
「あぶない刑事」までつながっていきます。
もうひとり注目は撮影の仙元誠三です。
このひとも一時現場から遠ざかっていたのですが、
石原軍団に参加し、角川映画など話題作に起用されています。
この「大都会」でその手腕は発揮され、民家の細い路地で
犯人を追いかけるアクションシーンやビルのなかでの抗争など、
いまのテレビではみれないアクションシーンをシャープな映像に収めています。
なかでも松田優作主演の「探偵物語」第五話「夜汽車で来たあいつ」。
共演の水谷豊と優作の映像が素晴らしく、
ふたりを引き立たせた映像を見て震えました。
エンドクレジットをみたら「撮影:仙元誠三」とあり、
その手腕を改めて感激したのでした。

「大都会」へ戻します。
PARTⅡ終了の半年後に「大都会PARTⅢ」がはじまります。

それまでのドラマパートが軽視された刑事アクションとなり
ドンパチ、カーアクションがさらに激しくなっていきます。
これも一年間つづくのですが、
同じ企画で日本テレビからテレビ朝日へ電撃移籍をするのでした!
テレビ局大変換・腸捻転!
これはそれまでねじれていた放送局の系列を再整備したものです。
旺文社と東映を大株主とする日本教育テレビNETという専門チャンネルを
事実上の総合放送にするため朝日新聞が筆頭株主となり、
経営再建もあり、朝日系となり地方局のネットワークが再編されたのです。
これは田中角栄が仕掛けたと言われます。
わたしの住んでいた大阪の朝日放送は社名の通り朝日新聞傘下の放送局ですが、
TBSとネットワークを組んでいて、腸捻転により
「ドリフターズ全員集合」、「東芝日曜劇場」などが
TBS系列になった毎日放送で放送されることになったのです。
東京では「仮面ライダー」がNET→TBS、
「必殺」シリーズがTBS→テレビ朝日へスイッチしたのです。
日本テレビは関係ないのですが、
テレビ朝日として目玉番組がほしくて、石原プロを口説いたわけです。
日本テレビと石原プロで製作でもめていたことがあったのです。
番組提供は日本テレビがすべてまかなうのですが、
番組本編に石原プロが独自にスポンサードをしていたのです。
これがこの2社の亀裂となり、広告代理店などが入って
電撃移籍となったのです。しかも舌の根が乾かぬうちに
翌週から放送されました。
それが「西部警察」です。
黒岩から大門になり、
石原裕次郎も刑事になります。
もうここはコメントいたしません。
5年にもおよぶ長寿番組となります。
出演者、スタッフ、路線もほぼ同じながら
テイストがかわり、クール&ドライかたスイートになりました。
「浮浪雲」で見せた新境地・渡哲也
「西部警察」移籍前にテレビ朝日で「浮浪雲」という時代劇が放送されました。
これまで日本テレビ一択だった石原プロがテレビ朝日と組んだことも話題になりました。
ジョージ秋山のコミックをこれまた倉本聰による脚本で一転してとんでもないコミカル時代劇です。
裏番組がNHK大河なんで、この路線ギャップはなかなかおもしろかったです。
高橋英樹が主演した「ぶらり信兵衛道場破り」のように江戸の市井の人々の暮らしをユーモラスに描いたほのぼの時代劇をさらにインチキに、時代考証を無視した時代劇です。
渡哲也は妻と子をもつ元武士で仕事もせず、女の子に声をかける軟派男を演じます。
これまで見せていたハード役から180度変換した演技もみせます。

倉本聰は高倉健にはコメディ的要素があるとして、
「あにき」というドラマで車寅次郎のような要素を入れています。
渡哲也にもその才覚があると踏んだのでしょう。
視聴率はヒットと言えるほどではなかったようですが、
我が家では大河でなくこの「浮浪雲」を楽しみに見ていました。
もっとBIG MANではなかったか?
石原裕次郎亡き後、石原プロ社長として会社を支え、映画、ドラマ、バラエティなどで活躍します。
しかし、一番脂が乗った時期がテレビドラマのみに活動を絞ったの残念でした。
それは石原裕次郎を支える、その一点です。
「自分のするべき作品を選ぶべきではないか?」と問われても
「石原を裏切れません」の一言で、男の義理を果たした人でした。
男気を果たした俳優でした。
機会あれば過去作品をご覧ください。